2013/07/24
比叡山1峰「第一スラブルート」(8P/5.7)
比叡山1峰の「第1スラブ」は比叡山エリア全体を通じての初登ルートであり、今なお高い人気を誇る素晴らしいクラシックルートです。ルート名はスラブですが、実際にはフェース、クラック、カンテと変化に富んでいます。岩質、内容ともに素晴らしく、あらゆるレベルのクライマーが楽しんで登れる名ルートです。
<第一スラブ・アドバイス>
・1ピッチ目は中段から左上していくラインが正規ですが、取り付きの壁はルートがあってないようなものです。左下のボルトライン(一番左にあらず)から直上していくラインも、少し泥が乗って汚いですが、2ピッチ目の下にダイレクトに出られるのでお薦めです。
・2ピッチ目はピンのない易しいフェース、3ピッチ目がリッジ状を登ります。第一スラブ・ノーマルの2ピッチ目、3ピッチ目もけっこうよいのですが、その左にある第一スラブ・スーパーの2〜3ピッチ目はさらに素晴らしいので、こちらがよりお薦めです。
・第一スラブ・ノーマルの5〜7ピッチは現在ほとんど登られていないようです。5ピッチ目からはスーパーを登り、最終ピッチでノーマルのラインを登るとよいでしょう。
第三スラブ
1ピッチ目は第一スラブなどの取り付きと同じでルートは判然としません。直上気味に登ると、45mほど登ったアンカーに「第三スラブ」の木の看板が取り付けられています。そこから一旦樹林に入り、少し上がった比較的きれいな細いスラブが第三スラブ取り付きです。その左には2.5スラブがあり、取り付きには「2.5スラブ」の木の看板が(今のところ)あるので目印になるでしょう。
第三スラブは実質的にここからはじまります。ここからの3ピッチは5.10bc、5.10a、5.10aと続き、楽しいし、プロテクションも良好です。その上はまだ3ピッチほどありますが(トポだと2ピッチになっています)易しいので、下部3ピッチだけ登って懸垂で降りてもいいと思います。
第二スラブ
第二スラブも下部はなかなか面白く、お勧めできます。上部3ピッチほどは易しくなってしまうので、第三スラブ同様、下部だけ登って懸垂で降りてもよいと思います。
なので、2スラ、3スラ、2.5スラなどの下部だけをまとめて登るのもお勧めです。
TAカンテ
比叡山1峰南面グループのTAカンテは、おそらく比叡山、鉾岳周辺にあって、一番易しいルートで、初心者、初級者を連れて行くには最適です。易しいですが、岩質のよい快適な登りが続く好ルートです。
1〜2ピッチ目はいろいろなバリエーションラインが取れ、取り付き左のコーナー(「麓屋のコーナー(5.7〜5.8くらい)」や、コーナー〜カンテ〜フェースとつなぐラインなどはひじょうにお勧めできます。
なお、最終ピッチの基部は、現在アンカーが枯れ木の大木しかありません。55m以上のロープなら、ここを飛ばして最後の終了点まで届きます。
比叡山1峰「ニードル左岩稜」(6P/5.9)
適度な難しさのクラックが続く、宮崎を代表する好ルートです。
1ピッチ目をノーマルでなくスーパー(※1)あるいはダブルフレーク(※2)のラインから登ると、1~6ピッチ目まですべて5.9前後が続くというきわめて質の高いルートとなります。
ニードルの頭からは15mほどの懸垂後、さらに3ピッチ登ってAピークへと至ります。この3ピッチも悪くはないのですが、後述のサマーホリデー83につなげるとさらに充実します。
※1)ニードル左岩稜スーパー1P目 → 良質な5.10a~bでお薦め!
※2)ダブルフレーク → こちらも5.10-くらいだと思うが、上記のスーパー1P目より厳しく感じる人が多いのでは。でもこちらもよいラインだし、一番自然ではあります。
比叡山1峰サマーホリデー83(3P/5.10a)
ニードルの頭から50mの懸垂1回で、平らな石のテラスとなったサマーホリデー83の取り付きに降りられます。ここからの2ピッチは、長さ、内容ともに申し分なく、ぜひニードル左岩稜からつなげることをお薦めします。
3ピッチ目の途中に大きな浮石があり、登るぶんには問題ないのですが、懸垂で降りるときロープが引っかかりそうで怖かったです。もし懸垂で降りるなら、下部2ピッチだけ登って降りるのがよいと思います。
比叡山3峰「左方カンテ」(5P/5.9)
これまた「ニードル左岩稜」に勝るとも劣らぬ好ルートです。内容はクラックとフェースで、グレードは5.6、5.9、5.8、5.7、5.9。
私は登っていませんが、下部3ピッチは5.10a、5.7、5.10bのバリエーションラインもあります。こちらを登っても楽しいかもしれません。
こんな良質のルートが、これまた車から降りて徒歩5分です。
下降は踏み跡をたどって歩いて簡単に降りられます。
比叡山2峰「正面壁」7P/5.11b)
1峰、3峰に比べて訪れる人の少ない2峰ですが、壁の規模は大きく、今後もっとも可能性を秘めたエリアかもしれません。
2017年3月に初めて登った2峰正面壁ルートは、登りごたえのあるピッチが続く、「白亜スラブ」に比肩する好ルートでした。
私の体感グレードは、
1P目)5.9〜10a、2P目)5.10c、3P目)5.11b、4P目)5.8、5P目)5.10b、6P目)5.9、7P目5.7
でした。
注)現在発行されているトポでは、私の言う1ピッチ目は0ピッチ目と表記されています。また、『新版 日本の岩場』では、私が5P目としたピッチを2ピッチに区切っていますが、このピッチは通して登ることをおすすめします。
ギアですが、カムは1セットでよいですが、オールナチュプロで行くのでないかぎり、クイックドローは15本以上あったほうがよいと思います。
なお、このルートは内容がよいのですが、ブッシュが多いのが減点要素だったため、登った翌日の雨の日に、さっそく掃除に行ってきました。まだ完璧ではありませんが、だいぶすっきりしたと思います。
比叡山3峰「白亜スラブ」(5P/5.11a)
このグレードでは宮崎のみならず、日本でも屈指の好ルートだと思います。名前はスラブですが、内容はクラック、スラブ、フェースのミックスです。
トポでは3ピッチ目が5.10、4ピッチ目が5.11-となっていますが、むしろ3ピッチ目が核心だと思います。3ピッチ目の長く美しいフィンガークラックは一登の価値ありです。
クラックの脇に初登時のRCCボルトが打たれていますが、いずれ撤去されることで、このルートの価値はいっそう高くなるでしょう。
2ピッチ目のRCCボルトは最近ハンガーボルトに打ち替えられましたが、このピッチもカムで取れる箇所のボルトはなくし、必要なボルトだけ残すようにしたら、さらによいルートになると思っています。
カムは1セット+エイリアンサイズをさらに2セットくらいあるといいです。ナッツも有効です。小さめサイズはたくさん持っていくことを勧めます。ヌンチャクも10枚くらいはあったほうがよいです。(すべてのボルトにヌンチャクをかけるなら、ヌンチャクは17〜18枚必要です)
鉾岳(雌鉾岳)「大長征ルート」(10〜12P/5.8)
比叡山から少し奥に入ったところにある鉾岳には、日本離れした大きなスラブが広がっています。
「大長征ルート」は、「美しいトラバースルート」という名前からして美しいルートから、上部を「大滝左ルート」につなげたリンクルートであり、この大きな壁のもっとも美しいラインをたどったルートです。
途中に出てくる長く美しいトラバースは、決して難しくはありませんが、一見(一登)の価値があります。そして壁から眺める雄大な風景もまた、宮崎以外の日本の岩場では決して眺められないものだと思います。
このルートの真価を味わうためには、ぜひとも好天の日を選んで出かけてください。また頂上には必ず立つことをお薦めします。
※ビレイ点の関係からロープは60m以上がベターです。カムは0.5〜2番くらい。ヌンチャク6〜7枚。
鉾岳(雌鉾岳)「美しいトラバースルート」(10〜12P/5.10d?)
鉾岳ではもっぱら大長征ルートばかり登っていたのですが、その元となるルートである「美しいトラバース」の核心部分を2017年3月に初めて登りました。
核心の2ピッチは1985年にフリー化され、5.10b、5.10aとグレーディングされていますが、実際はとてもそんな生易しいものではありませんでした。
グレードをつけると、核心1P目はあるいは5.10dくらいなのかもしれませんが、白亜スラブの核心ピッチ(5.11a)や、比叡山2峰正面壁の核心ピッチ(5.11b)より登るのが難しいのは間違いないと思います。私は持てる力を出し尽くしてなんとかオンサイトしました。
なお、核心1ピッチ目、2ピッチ目とも、フリーで登るためには、ボルトラインからある程度離れる必要がありました。(もちろんそのために多少ランナウトしたりします)。いずれ良い位置にボルトが打ち替えられると、より素晴らしいラインになると思われますが、現在のボルトで登った時の充実感は減ってしまうかも……。
核心2ピッチ目は私はセカンドで登りましたが、こちらは5.10bくらいでしょうか。このピッチもボルトラインをある程度無視して登りました。あとになって残念に思ったのは、このピッチをセカンドで登ってしまったことです。リードしていたら、全ピッチのオンサイトとなっていたはずだからです。
このルートの核心部2ピッチは、多くのクライマーにとっては人工(アブミが必要です)になると思います。そして人工で登るくらいなら、大長征の方がよほど素晴らしいラインですし、そちらに行かれることをお薦めします。
しかし、フリーでトライするなら、この2つのピッチは本当に質の高い、日本でも有数のスラブピッチだと思われます。私は鉾岳の他のルート———「四月の風」、「カメレオン」その他も登っていますが、美しいトラバースの核心ピッチが一番厳しく、かつ充実度の高いピッチでした。
付け加えるなら、この核心の1ピッチ目(40m)〜2ピッチ目(30~35m)を通して登れたら、よりすごいピッチになると思います。と言いますのも、1ピッチ目の終了点はかろうじて両手を離して立てるものの、レッジと言えるほどのレッジではないからです。
雄鉾岳「正面壁左稜線ルート」(6P/5.10d)
これまでほとんど登られてこなかった雄鉾岳に、2013年に拓かれたばかりのルートを2014年4月に成田賢二と登ってきました。スラブにはじまりスラブに終わる雌鉾岳の諸ルートとは様相を異にし、スラブ、クラック、小ハング、フェース、オフウィドゥスと、内容は変化に富んでいます。グレードは私と成田の体感で下から5.9、5.7、5.10d、5.10a、5.10c~d、5.8くらいですが、オフウィドゥスなどもあるので、グレード以上に手応えを感じることでしょう。宮崎の岩場でも上質の部類に入る好ルートだと思いました。初登パーティーは3ピッチで人工を混じえていましたので、私たちが「フリー化」ということになるかもしれません。
※ルート情報は『鹿川通信№129号』に載っています。「庵・鹿川」に三澤澄男氏を訪ねれば記録をいただけると思います。
☆他にも私が登っていないルートでまだまだよいルートがたくさんあると思いますので、これからもせっせと通って、また情報を更新いたします。
Category: 西日本の岩場